中学数学の学習初期のハードル
中学数学は、正負の数から学習がはじまります。
負の数という、「具体的なもの」として扱えない数を習います。
小学校のときにはなかった、抽象化のはじまりです。
そして、中学に入学してすぐ、最大のハードルがやってきます。
負の数 × 負の数 は正の数になる!!
ただの計算ルールと割り切って計算練習を積めば、
それはそれで問題なく通過する箇所ですが、
なぜ?
何の意味?
とこだわると、かなり難しく、つまづきやすい箇所です。
これについて、2つの文章をかかせていただきます。
その1 初学者は「なぜ?」にこだわらなくていいことの説明
その2 結局なぜ成り立つのかに対する説明
このページでは「その1」についてです。
なぜ?にこだわりすぎない方が良い
負の数 × 負の数 は正の数になる。
なぜそれが成り立つのかについて、初学者は
深入りしないほうがいいと筆者は考えます。
「まずは計算のルールとして割り切り、計算がスラスラできるようになればよい」
という教育スタンスです。
なぜ?という気持ちはとても大切にして欲しいのですが、
そればかりにこだわって先に進めなくなるようなことはしないで欲しいのです。
巷には、負×負=正 の理由を説明する文章がいくらでも転がっています。
どうしても気になる人は、それを読んで「なんとなくわかったような気がする」
くらいの気持ちになればOKでしょう。
ほぼすべての文章が、厳密な説明ではなく、なんとなくわかったような気持ちにさせて
あげるための文章です。当サイトもそのような説明を「その2」にかくことにします。
なぜ厳密な説明がないのかというと、「すごく難しいから」です。
数学の根幹部分、基礎の基礎の定義部分は、難しい受験問題を解くとは異なった方向の難しさがあります。
負の数とかけ算の交換法則
ところで・・・
そもそも、
負×正=負
と
正×負=負
は、本当に納得ができているのでしょうか?
負×正=負の例は、
(-2)×3=(-6)
これは、2円の借金を3人にしていれば、合計6円の借金
という明確な意味を伴って理解されます。
初学者にも納得です。
次に正×負=負 の例です。
\(3×(-2)=(-6)\)
\(3\) 円が \(-2\) 個ある、とはどういう意味なのでしょうか?
意味にとことんこだわる人ならば、この計算
\(3×(-2)\)
がいくつになるのか、
世間では、\(-6\) だと言われているが
なぜなのか。
本当に \(-6\) で正解なのか。
ここからこだわるべきです。
しかし、多くの人は
\((-2)×3=3×(-2)\)
が成立するのは当然のことと受け止めています。
「かけ算の交換法則が成り立つ」ということなのでが、
負の数のかけ算でもこれが成り立つとは、
いったい誰が保証してくれるのでしょう?
交換法則がなぜ成立するのかについては完全にスルーして、
\(3×(-2)=(-6)\)
を、意味をともわない理解をしている人が大多数です。
それなのに、
負×負=正
は、どうしても意味にこだわってしまう・・・・
これが多くの普通の人の感覚です。
学習している中学生だけでなく、
教えている教師の方もです。
筆者は、このことを責めたいのではありません。
交換法則ってなんとなく成り立ちそうじゃないですか。
で、実際に成り立つことは昔の人が確かめてくれたから、
そのまま受け入れましょう!
これくらいゆるい学習スタンスで良いと思っています。
同じく、負×負=正
に関しても「なんとなく成り立ちそうだな」
くらいまでは考えてもらって、あとは受け入れる「ゆるいスタンス」を
オススメします。
まずは原理より実践を優先する学習方法
根本原理までわかってないと、使ってはダメだよ、というのは教育的に間違いです。
例えばプログラミング言語を学ぶとします。
まずは、実際に簡単なプログラムを組み、
プラグラムを動かす実践を積んでいくことになるでしょう。
そして、学習を続けていけば、
信じられないくらい複雑なゲームを作ることが
できるようになります。
しかし・・・
その段階までレベルアップしたプログラマーでさえ、
「そもそもプログラム言語がなぜコンピューターを動かすことができるがわからない」
こんなことは、普通に起こっていることです。
基礎原理も大事だが、まずは実践。
とても普通の教育課程だと思います。
中学数学の学習過程もこれと似たようなものです。
根本原理を腹の底から理解し、すべてを説明できる人なんてはっきりいっていませんし、
そんな能力は求められていないんです。
ある程度の規則は暗記して、それを正しく運用できること。
これが中学数学で求められているものです。
※高校数学でも同様です。
どうしても気になって、根本原理を追求する人はいずれ数学者になるような人かもしれません。とても素晴らしい学習姿勢ですが、すべての人にそのレベルを求める必要はないでしょう。
根本原理ほど難しく、トートロジー(同語反復)に陥りやすい箇所はありません。
教育的な意味において、ある程度はスルーすべきであると強く信じています。
数学の基礎定義には、意味を求めるべきではない
ちなみに
人類の歴史においても、算術、数学は、
実際の生活と密接に関連して発達していきました。
しかし、数学が発達していくと、実生活上の具体的な計算を
超えた世界があることに人類は気づきました。
数学とは、「構造」を扱う学問なのです。
個数とか量とか長さとか、そのようなものを扱うこと超えて、
数が作り出す「構造」を調べる学問なのです。
負の数×負の数=正の数
など、これはもはや日常的な感覚での意味を考えない、というのが正解です。
負の数は、もはや具体的なものを離れた、
構造を扱う学問の世界への第一歩なのです。
「構造」とかいわれても意味不明ですよね。
例えばゲームのCGをどうやって作るのか、想像してみて下さい。
架空世界の中で、きちんとルール通りキャラクターが動いてくれないといけませんね。
すべて計算通り動くように制御されているわけです。
人間が人工的に「構造」を作っているわけで、
当然ですが、「数学」によってCGは作られています。
CGを作るための数学で用いられている数は、
もはや中学生には想像もできないような数です。
日常的な感覚から完全に離れた「数」で、
もはや「数」とは思えません。
これらの「数」は交換法則も成り立ちません。
\(AB \neq BA\) という構造の世界です。
ちなみにCGだけに限らず、
我々の世界そのものである、超ミクロの量子(原子より小さい世界)も、
想像を絶する数学の世界で作られています。